【学長対談5】2000年ノーベル化学賞受賞 白川英樹氏
平成28年11月29日(火)
白川英樹氏
(筑波大学名誉教授、2000年ノーベル化学賞受賞)
島田眞路学長(以下、島田学長)
ようこそおいで下さいました。ありがとうございます。
白川英樹氏(以下、白川氏)
こちらこそ、楽しみにしておりました。
島田学長
(本学が掲載された総合科学誌「Nature」を手に)これは、平成27年にノーベル賞医学生理学賞を受賞した本学卒業生・大村 智 特別栄誉博士のご功績をはじめ、医療・燃料電池・ワイン科学・発生工学など本学の教育研究が掲載された「Nature」です。大村先生からも「これを機にもっと大学をPRして欲しい」とご助言もいただき、学生の学業支援のための給付型奨学金支給等を柱とする「記念基金」を創設するなど様々な事業を進めているところです。
白川氏
大村先生のご受賞は、私も喜びました。山梨大学にとっても喜ばしかったことでしょう。これを励みに、さらなる教育研究に邁進されますことを期待しております。
ところで、山梨大学は、師範学校が起源・由来となっていると聞きましたが。
島田学長
そうです。寛政8年(1796年)に設立された江戸幕府の学問所「徽典館(きてんかん)」がルーツにあります。本年10月には教育学部同窓会「徽典会」と協働で、天保14年(1844年)の新築移転を記念して建立された「重新徽典館碑」について、歴史的価値を後世に遺していくため、石碑を修復し甲府西キャンパス入口に設置・整備しました。
白川氏
古くからの伝統を今もしっかりと受け継いでいらっしゃるのですね。
山梨大学の学生さんは、県内出身者は多いのですか。
島田学長
3~4割くらいですね。幅広く全国から本学へ学びにきてくれています。特に医学部は他県出身が多いですね。ただ、新医師臨床研修制度の影響もあり、卒業後に地元・山梨にとどまる学生が少なくなり、これが地方の医師不足問題を引き起こしました。山梨県が修学・研修資金貸与等の対策を始め、一定期間県内で働いてもらう制度が浸透し、何とか本学も頑張っているところです。
我々地方の国立大学は本当に危機感を感じています。国からの運営費交付金が毎年1%ずつ削減されています。人件費等までも見直さざるを得ず、教員が辞職した後も補充できない、となるとその教員の担当科目が無くなる。苦渋だがそこまでやらないと大学は持たないんです。
白川氏
そのことは文部科学省に伝えないのですか。
島田学長
いや、幾度となくお話しています。これでは学生へ教育できないし、未来を担う若い研究者も育ちませんよ、と。経済成長や安全保障も大事ですが、政府は日本の教育研究に関してもう少し強い意識を持ってもらいたいですね。
白川氏
それは大変ですね。学長の危機感がよく理解できます。実は以前、政府の総合科学技術会議の有識者議員を務めていた時に、科学技術担当大臣と一緒に財務大臣のもとへ要請に行ったことがあります。まさに膝詰めで、科学技術予算、特に基礎科学分野の拡充をお願いしたいと。大臣は「わかった」とおっしゃいましたが、「省としては全体の予算配分を考えないといけない」とも付け加えていました。また、昨年、文系学部についての存続に関わる話が出ましたね。これも本当に心配していますよ。
島田学長
ノーベル賞受賞者である白川先生からも、是非発信していただければ幸いです。
白川氏
みんなで声を上げていかなければなりませんね。
今、私が熱心に取り組んでいるのは、子供たちとの実験教室なんです。特に小学校の先生はカリキュラム上、理科の授業で実験を担当するのはなかなか厳しいし、現実に実験することも少ないようです。自然科学への関心を持ち感性を磨くのは「実験」が基礎であり、感性豊かな時期だからこそ実験に親しんでもらうのが大切だと思い、私ができることから始めようと思ったんです。定期的には、東京・お台場の日本科学未来館で月に1回教室を開いています。近年では科学技術振興機構がアジアの若者を日本に短期間招聘する「日本・アジア青少年サイエンス交流事業」の中で、私が実験教室をやっています。特に中国やインドからの学生が多くて、皆さん大変優秀ですね。大学生になったら日本に留学して欲しいと思います。特に中国の学生は「自国で教えられてきたことと全然違う。しかも日本の街はきれいで、日本人は親切だ」と言って帰っていきました。
島田学長
素晴らしい取り組みですね。感銘を受けました。
科学技術分野で、これから中国は伸びてくると思います。予算も論文数も、日本が停滞している中で中国は増えていますし、インパクトファクター(トムソンロイター)の分野別に見ても質の高い論文は中国が多いですね。それにしても日本はアジアでの地位は厳しくなりました。「THE世界大学ランキング2016」でもアジアでの上位3大学はシンガポール国立大・北京大・精華大で、次に東京大などが続いています。このような状態でも教育研究への投資が削減され続けるのは大変です。日本も他のアジア諸国に追い付かれると思います。
白川氏
確かに、中国は多額の費用をかけて立派な研究施設を次々に建設していますね。
島田学長
中国からは非常に多くの研究者がアメリカやヨーロッパに渡っていて、彼らを再び中国に戻すために、研究室ごと持って来る力も持っています。北京大や精華大では、いかに自分の大学に彼らを呼び込むかを競争しています。
白川氏
日本も負けないように頑張らないといけませんし、そのためにあらゆる資源を投入しなければなりません。私も努力してまいります。
島田学長
私も大学の経営者としての責任を果たすべく、頑張ります。今後ともご指導の程、よろしくお願いします。本日はありがとうございました。