【学長対談4】前文化庁長官 青柳正規氏

2017年2月17日

平成28年9月28日(水)
青柳正規氏
(前文化庁長官、山梨大学経営協議会学外委員、東京大学名誉教授・元副学長)

文化と地域振興について

青柳氏

  • 近年、産業構造の変化によるまちの空洞化や荒廃が問題になっている中、文化庁では、文化芸術の持つ創造性を取り入れた地域振興、観光・産業振興等に頑張る自治体を「文化芸術創造都市」と位置付け、長官として表彰し支援してきた。行政、芸術家や文化団体、企業、大学、住民などが連携して都市形成に取り組んだ成功事例は国内外で数多くある。
  • 「社会的多様性」「文化の多様性」「自然の多様性」が織りなして「地域文化」が形成されている。しきたりを重んじる穏やかな伝統的文化に対して、現在の日本はやや競争・拡大にシフトしながらより堅牢・普遍的な文化になりつつあり、距離のある両者、いわば伝統と活力を融合させた文化が今求められている。

島田学長

  • 本学は山梨県唯一の国立大学であり、地域の自然・歴史・文化に触れ、地域社会と緊密に連携してニーズにいち早く反映した特色ある教育を行っており、地域の要請に応える大学として、その責任や使命はより重いと考えている。地方創生の基軸の一つには「教育による再生」が欠かせず、今後とも地域と協働して知恵を出し合っていきたい。
  • 地域振興には、住む人々の生活・環境・文化など多様な地域資源、眠っている地域の潜在能力を引き出し、新しい価値を発見・創造し活用する必要がある。国立の高等教育機関として、文化の面における地域のネットワークの一翼を担うべく、大学の知的資源を広く地域社会に還元して活用してもらい、新しい文化の創造に役立てていただきたい。

研究支援・人材育成について

青柳氏

  • 山梨大学のワイン研究の実績や社会貢献を知り感激している。山梨県において江戸時代からブドウの栽培が始まり、明治初期よりワイン醸造が行われてきたこともあり、戦後に山梨大学で「醗酵研究所」が設立されワイン研究が進められてきたことは、まさに地域に根差した教育研究の代表例だ。学生が活き活きと学び研究に励む様子は実に頼もしく、今後とも国立大学唯一の専門研究機関としての活躍に期待したい。
  • 若者が地域に定住するためには、後継者を育成し産業雇用を創出することで地域活力を向上させ定住させる、この好循環が必要である。特に農業の分野においては、6次産業化への様々な取組が全国的に行われており、今後は連携のためのコーディネーター役の育成や様々な団体やグループ間のネットワーク化が必要になる。
  • 地域のつくり手は、地域で育てなければならない。地域への誇りと愛着を育み、地域起業化の精神を涵養させる。「田舎には何も無い」「都会の方がいい」と言うのではなく、「自分たちのまちを元気にする新しい仕事を起こすために帰るんだ」という気概を持った若者が地域を変えてくれる。そんな学生を山梨大学は是非育てて欲しい。

島田学長

  • 本学では、ワインの他、水管理・クリーンエネルギー・燃料電池・発生工学・先端脳科学・医療機器開発など、世界トップレベルの研究が数多く揃っており、今後は医学・工学・農学等諸学を融合させた新しい研究にも力を入れていきたい。
  • 本学では近年「山梨ブランドの食と美しい里づくりに向けた実践的人材の育成」と題して、山梨県の農業の衰退に歯止めをかけ、自然と一体となった新たな里づくりのために、県や自治体、産業界、金融界、県ワイン酒造組合等と連携して全学的に取り組んでいる。
  • また、平成27年度からは「オールやまなし11+1大学と地域の協働による未来創造の推進」を銘打って、今後成長が期待される「ツーリズム」「ものづくり」「子育て支援」「CCRC」の4テーマを中心に新規事業化による雇用創出を図るため、県内全大学等と連携して実践的教育カリキュラムやインターンシップを行うことで、学生に地域への愛着や地元企業への理解を深めてもらい、地元に定着することを目指している。
  • 大学運営の現状として、運営費交付金や研究支援等で厳しい財政状況の下、たゆまぬ自己努力は続けているものの限界があり、国による更なる支援をお願いしたいところである。政府も、地域振興の担い手の育成のために、地方大学の振興や学生の地元就職支援を促進することが喫緊の課題であるという認識は持っているだろう。